James Bond の後継者ってわけでもないけど、面白し。

シリウス・ファイル」The Sirius Crossing ジョン・クリード 新潮文庫 昨日読了。
シリウス・ファイル (新潮文庫)
もちろん、”冒険小説の真髄、ここに甦る”との帯のコピーに惹かれたわけでもない。この手口にはさんざん騙されきましたからね、我らがマクリーン的正調冒険小説にはとんと御無沙汰。ここんとこクランシーの「教皇暗殺」とかフリーマントルの「城壁に手をかけた男」、先月の「夜の回帰線」等、久々に新潮文庫の翻訳ものを読み継いでる威勢も手伝い、ここらではずれるかなとの予感を抱きつつも、手にとることに。
しかして、ページを繰るにつれ、そんな疑念は見事に晴らされます。中盤追っ手が迫る中、主人公らが駆るトロール船で嵐のノース海峡に臨むあたりからは、俄然面白くなり、後はページを繰るのももどかしい状態、うん、こういうのが読みたかったんだ。
このジャンルの小説ではお約束、読後の爽快感は、となればちょっと首をかしげてしまう。正邪を問わず時代を経るごとに人は確実に不実の度合いを増す、読後の印象の度合いもそれに呼応するかのよう。21世紀の冒険小説は半世紀近く前の有様とは違うだよ、と読み取ってしまってはちといきすぎかな。
再度、帯のコピーに戻る、さらに小さな字で「脱出航路」や「女王陛下のユリシーズ号」を惹きあいにだしていますが、海上での攻防部分(分量としても先の2作品に大きく劣る)のみ当てはまるということで、相応しい例えではありませんね。代表作として挙げたのでしょうが、このお二方の作品であれば、リーアム・デブリンが主人公となる作品とか、もともとイアン・スチュワート名義であったものとかの方がずっと相応しく思う。