ぼんくら/宮部みゆき

ぼんくら(上) (講談社文庫) ぼんくら(下) (講談社文庫)
この人の著作を読まなくなって久しく、朝日新聞夕刊に連載していた「理由」までだったか。ミステリーや時代もの以外、SFぽいのやファンタジー系のものは何とはなし敬遠しがち。なので、長いお別れの後、手にした本書は時代物。文庫であるから、当初出版されてよりかなりの時間が経っている。
で、良いんだなこれが。通勤、営業移動時のみにしか、目を通せないにもかかわらず、すぐに惹きこまれ、結構早いペースで読了することとなった。
時代が孕んだであろう本来の過酷さ、剣呑さの度合いもほどほどに、それよりは深川界隈に生きる市井の人々に向けられる視線がことのほか優しいのは、「本所深川ふしぎ草紙」に始まる一連の時代小説と同様。私が身を置く、日々喧騒の巷にあって、ホント一服の清涼剤的な味わいとなって心身に染み渡る。効くのよね、こういのが一番。
宮部時代物のファンとしては、回向院の茂七親分の名前がでてきたりするのが嬉しい。また、小伝馬町の牢屋敷に勤める気性が真っ直ぐな若き医師が登場し、何かと尽力するわけですが、相馬登としている名前は、もちろん藤沢周平さんとこの立花登を意識してのことなんでしょう。
実は、東京出張時、とかく江東区に宿をとろうとしてしまうのは、そんな宮部ワールドの名残を少しでも辿れればとの想いからなのだった。