日本の黒い霧/松本清張

新装版 日本の黒い霧 (上) (文春文庫) 新装版 日本の黒い霧 (下) (文春文庫)
これはすごい、すこぶるつきに面白し。著者は、ジェイムズ・エルロイにずっと先行していたのだ。
戦後、世情を騒がせた怪事件の数々、その主催者、背後で蠢く勢力は?
占領軍が目指す地平は明確。そこに到達するまでの過程において、GHQなる当初の一枚岩の組織は次第に瓦解し、内部分裂、反目を繰り返し、互いに勢力を競いながら血みどろの争いに耽る。状況は、この国の民を反共の最前線に駆り立てつつ、必然的な帰結として、朝鮮戦争という一代イベントに収斂されることとなる。付合わされた日本人はたまったもんじゃなかったろう。そんなことどもが、著者独自の視点から、ノンフィクションの形式をもって綴られてるわけだ。
想像力を巡らせれば、冷戦を終えて久しい今日、先のJR西日本の惨事を将来する禍根も、この時期より培われた悪意に起因するのだと容易に確信できる。恐ろしくもタイムリーな一冊であった。