孤独の海/アリステア・マクリーン

かつての巨匠も旬を過ぎ、過去の人。至高の冒険小説群は1960年代まで、1985年に出版されたとなれば、なおさらのこと。まして、マクリーンであれば、短編小説集なんてありえないはず。買うには買ったが、長く積読状態とした。これが大きな誤り、ナントモ愚かであったことよ。
大半を占めるのは、2次対戦期の戦記物、後の数編はフィクションとなる。
戦記物は、いずれも大戦下の海が舞台。英独の別なく沈められた船の悲劇が綴られていて、短編ながらも、これらのどれもが好いんですね。
男女を問わず登場する人物たちは、ノンフィクションである分、小説の主人公以上にリアルなものとして伝わってくる。
沈没する船上にあり、艱難辛苦の狭間で、イギリス本土にとっての生命線となる輸送船団を、運悪く乗り合わせた女子供を、命を賭して守り抜こうと奮闘する男たちの姿には、通勤の途上の車中にあっても思わずウルウルとなってしまう。特に、多くの児童の死が綴られる一編は悲惨の一言に尽き、自然と涙を誘われる。
小振りながらも、ユリシーズ号の乗組員と志を同じくする男達の物語を堪能できる好短編集でありまする。
既に絶版となっているのは残念。