名もなき毒

名もなき毒
読みやすいということもありますが、ページをくる手ももどかしいというように、比較的短時間で読了しましたわ。この人の小説、相変わらず面白いです。
読み進めていくうち、日々新聞紙上でいくばくかのスペースを占める理不尽な犯罪記事があれやこれやと思い起こされ、重々しい気分に陥ったりすることも。
個人的に、こういった犯罪小説に勤しむのは、社会が孕む様々な悪意と向き合い、折り合いをつける術(言葉)を見出すための作業なのではなかろうかと。見つけたフレーズを救いに、過酷な現実を生き抜く糧とする。本書では特に、示唆される事柄が多かったように思う。
本書の主人公は先年出版されていた「誰か」と同じ。先週の朝日新聞文化欄に載っていた著者の言によれば、今後、現代ものはこの主人公のシリーズのみ書き継いでいき、本書のラストで伏線が敷かれているように、次作では探偵に転身するのだと。さしずめリュウ・アーチャーの線かな、楽しみだ。